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スイスのボランティア活動

スイスのボランティア活動

スイスのチューリッヒ近郊の町で暮らすなかで、地域社会や生活スタイルについて考えたことを、お伝えしていきたいと思っていますが、今回のキーワードは、「ボランティア(活動)」です。(ボランティアを、ここでは、自分以外の人やものや事情のために公式・非公式に時間を費やす行為(活動)という大枠で捉えています。)

前回の記事「超高齢化社会におけるスイスの世代間交流への取り組み」でも少し触れましたが、超高齢化社会を目前にして「社会的連帯」を強めなくてはならない、とよく言われます。

しかし、その社会的連帯を強めるにはなにをどうしたらいいのでしょう。

綻びがでてきた地域の社会保障制度や、衰退するキリスト教的な伝統的地域扶助組織にかわって、大きな鍵を握ると思われているものの一つが、ボランティア活動です。

このためEUでは、ボランティア活動を公に高く認知し、奨励、支援するため2011年を、ヨーロッパ・ボランティア年と定めました。

スイスはEU加盟国ではありませんが、同年は年間を通して、様々な地域のボランティア活動がメディアで取り上げられ、その重要性が改めて社会的に認知されたように思います。

もともとスイスは、二人集まれば結社(クラブ)をつくる、と言われるほど、結社に入って趣味やスポーツなどの活動をする人が多く、結社活動が活発です。

そして、それらの結社やネットワークを母体としたボランティア活動は、地域社会の文化事業や社会福祉に伝統的に大きく貢献してきました。

実際、スイスで15歳以上の人でボランティアをしている人の割合は、ある統計データでは40%にものぼり、ボランティア活動に費やされている時間は、国全体で合わせると6億6千5百万時間になるとされます。EU加盟国の15歳以上のボランティア活動の割合が平均23%であるのと比べても、スイスでのボランティア活動への関心の高さがわかります。

新しい募集・参加の形 -ベネフォール-

新しい募集・参加の形 -ベネフォール-

ただし 既存の結社はどこも、近年、会員(特に執行部や若い世代の人数)が減っていて、従来の活動がままならないところも増えています。

また、 新しくボランティアをはじようとする人の行動パターンも変わってきています。

結社や組織に入会した上で、活動の一環としてボランティア活動をするというのではなく、興味があるプロジェクトに単発・短期的にボランティアとして参加するという人が増えてきていると言われます。

時代と共に移り変わる社会やライフスタイルに合わせて、ボランティア組織にも、ボランティアの募集の仕方や参加の仕方を新しくしていくことが求められているといえるでしょう。

このような状況を背景に、ボランティア団体を統括する上部機構である「ベネフォール」は、数年前からボランティアの仕事の募集一覧サイトをはじめました。

このサイトでは、細かな条件で自分に合いそうな仕事を簡単に探すことができます。

少し詳しく紹介しますと、まず働きたい地域について、地域か郵便番号を入れ、さらにそこを中心にして、どれくらい離れた仕事場までを対象範囲とするか、0キロか ら50キロまでの細かな選択肢から選びます。

仕事分野は17に分か れており、教育、事務、環境、運搬、サービス、文化など様々なジャンルから希望のものを選びます。

さらに、ボランティアで対象としたい年齢や社会グループ(子供、老人、障害者、外国人など)を選択することもできます。

これらの条件を選んで検索すれば、すぐに結果が一覧でき、その中に気に入った仕事があれば、直接応募者に連絡するという仕組みです。(応募要項をサイトに掲載できるのは、ベネフォールがボランティア団体として公式に認可した団体や組織に限られます。)

プラットフォームを共有することが出来るようになったおかげで、多様で常に変動しているボランティアの需要と供給のなかで、高い透明性を保ちつつ、円滑なマッチングが可能となりました。

なにより、潜在的なボランティア希望者が、どこかに改まって出向く必要もなく、ネットで気軽に、自分に合ったボランティア活動や組織を探し、連絡を直にとることができるのが画期的といえるでしょう。

実際に、250人 のボランティアを抱える市営老人ホームのボランティア支援部門の担当職員によると、近年はこのマッチング・サイト経由で応募してくる 人が一番多いとのことです。

わたし自身も、詳細はまた別のところでお伝えしようと思いますが、このサイトで4年前と3年前に気にいるボランティアをみつけて、二つとも現在も活動中です。

今後も スイスのボランティア事情について色々な角度からリポートしていきたいと思っています。よかったら、引き続きお付き合いください。

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TOMOMI HOTAKA
2006年からスイス在住。学習院大学人文科学研究科博士後期課程修了、博士(史学)。元学術振興会特別研究員。 現在、地域の異文化・異世代間交流、教育、ソシアル・ゲイミフィケー ショ ンなどの分野で、ライター、リサー チャー、翻訳、通訳、語学指導員(ドイツ語・ 日本語)として従事。仕事とボラ ン ティアと二人の子育てを組み合わせたモジュール型ワーキングを実践中。