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EU移民問題とスイス

EU移民問題とスイス
夏以降、シリアをはじめとする中東やアフリカからの難民が、EUを目指 して押し寄せている様子が、連日メディアで報道されています。

ドイツでは今年2015年、一年間で前年の4倍の80万人が難民申請をすると予測しています。

ドイツでは大量の難民に戸惑う声がある一方、労働力不足に悩む工業界では、熟練した技術をもつ難民に強い期待がよせられており、難民の就労制限の緩和を政府に要請する動きも出てきています。

また、短期ではなく長期的な視点から、人口低下に伴い不足するとされる労働力の供給源として評価する見方もよく聞かれます。

スイスでも産業化がはじまる19世紀後半以降、外国人労働力は常に不可欠な存在であり、現在にいたっています。

今日のスイス社会での就業人口における外国人労働者の比率は2割を越え、昨年一年間だけでも、15万人の外国人が新たにスイスへ移住しています。

スイスにくる外国人労働者の出自国は、二つの大戦間や大戦直後、1970年代、また冷戦終結という時代の移り変わりや、移民法改正、EUとの協定に伴い、変化してきましたが、イタリアやドイツなどのヨーロッパ周辺諸国以外に、旧ユーゴスラビアなどの東ヨーロッパの国々や、アフリカ・アジアの国々など、非常に多様なのが大きな特徴です。

スイス最大の移民・難民救援組織の一つであるカリタスが、チューリッヒ州で昨年開設した初心者向けドイツ語講座受講者の出身国は、65カ国にのぼりました。

すでに 800万人の人口の23パーセントが外国人で、これ以外に、もともと外国出身で現在スイス国籍を取得している人も相当数いることを考慮にいれると、スイスは、アメリカやオーストラリアのような「移民社会」ではないにせよ、近代の歴史において、また現在も移民と共存している社会であるといえます。

ボランティアスタッフはこんなにも多国籍

ボランティアスタッフはこんなにも多国籍

スイスが移民と共存している社会であることを実感する、象徴的な出来事が最近ありました。

地域の老人ホームでボランティアをしている人が招かれる慰労感謝会に参加した時のことですが、隣席の人と話してみると、ドイツ人、チェコ人、トルコ人、オーストリア人、イタリア人、と外国人ばかりだったのです。

老人ホームのスタッフたちが、深刻な人員不足の結果、外国出身者が多いことは知っていましたが、ホームのボランティアもこんなに多国籍だとはそれまで知りませんでした。

実際、 わたしの住む都市の5箇所の市営老人ホームのボランティア・スタッフの出身国は(もちろんスイス人が一番多いのですが)、 現在5大陸にまたがり、言語数は15カ国語になるといいます。

いろいろな時代的背景や何かの縁で、スイスという土地に流れ着いてきた外国人たちが、慣れ親しんで住んできたスイスという第二の母国で、スイスの老人達(現在の老人ホームには、ほとんどスイス人しかおらず、外国出身の居住者はごくわずかです)をボランティアとして支えているということ。

これは、スイス社会が概して、ふところ深く、様々な外国人を受け入れてきたことのあらわれだといえるでしょう。

同時 に、今後も、全住民の約四人に一人を占める外国人が、同郷人同士で支えあう扶助組織だけでなく、スイス社会全体に還元されるボランティア活動の一端を担っていくのだとしたら、それは、これからの超高齢化時代のスイス社会を補強する、頼もしい活力の一つとなるのに違いありません。

スイスの「移民と共存する社会」というプロジェクトは、幾世代もまたいで長い年月をかけて構築されてきたものであると同時に、今もゆるぎなく進む「現在進行形」のプロジェクトです。

今後も多様な移民と住民を率いて続いていくこの壮大なプロジェクトが、どのように展開して いくのか、これからも見守っていきたいと思います。

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TOMOMI HOTAKA
2006年からスイス在住。学習院大学人文科学研究科博士後期課程修了、博士(史学)。元学術振興会特別研究員。 現在、地域の異文化・異世代間交流、教育、ソシアル・ゲイミフィケー ショ ンなどの分野で、ライター、リサー チャー、翻訳、通訳、語学指導員(ドイツ語・ 日本語)として従事。仕事とボラ ン ティアと二人の子育てを組み合わせたモジュール型ワーキングを実践中。