外国人と恋に落ちるなんて、まさかね。
「青い目の彼氏を連れてくるの、楽しみにしてるよ。」
渡豪前、複数の友人にこう言われた。
ワーホリや留学へ行く前に、言われたことがある人もいるのではなかろうか。
出発前のわたしはそう言われても、ふふふと笑ってごまかしていた。
オーストラリアで恋に落ちるなんて思いもしていなかったのである。
ワーホリ出国前のわたしの恋愛は、片想いが大好きな夢見るチキンであった。
8年間にも及ぶ片想い。
一途といったら響きはいいけれど、ここまで来るとしぶといというかしつこいというか、ちょっと異常ではなかろうか。
君がいるそれだけで
心がとても温かくなる
僕の願いはたったひとつだけ
そうこんな風にいつまでも
君を好きなままでいていいですか?
あゆちゃんの”Days”がiPodの再生回数一位なのも頷ける性格なのである。
初めてのワーホリ生活。全てのことが新鮮だった
最初は毎日が新しいことだらけ、恋愛しているヒマなんてない。
オーストラリアに着いてから最初の3ヶ月はシドニーで語学学校へ通った。
見るもの全てがキラキラと輝いていた。
日本では経験できなかったいろいろなことやものが新鮮な驚きだらけで、その見えたままの景色や感じたままの空気や匂いなんかをぜんぶお土産にして家族に伝えたい、って思っていた。
初めてできた外国人のお友だち、日本にいたら出会わなかったような日本人のお友だち、あたたかいホストファミリー、ユーモアたっぷりの語学学校の先生たち、そして街で出会う人たち。
新しい環境は発見の連続で特定の誰かに思いを寄せているヒマなんて全くなかった。
あっという間に学校期間は終了し、セカンドビザ取得のためにファームへ向けてシドニーを出発した。
みんなの憧れ。日本人と外国人のほっこりカップル
タリーという村での共同生活。
バックパッカーでの生活だ。
わたしが滞在していたタリーホテルは、当時はかなり安かった。
トイレとシャワー付きの4人部屋で一週間80ドル。
ルームメイトは、イギリス人男子×3!!!!
わお、初めてのワークバッパー、男女共同だったと思ったらルームメイトに女の子はいないし全員英語ネイティブだし・・・
そのうえおっさんみたいで怖い。(と思ったら、全員年下だったけど。)
人見知り全開のわたし、二段ベッドの下の段にぐるーーーっとバスタオルを囲って完全に引きこもる。
それでも慣れるようにと気を使ってなのか、ルームメイトたちはみんな話しかけてくれる。
その頃、そのバッパーには当時そこに滞在していた日本人女子全員が憧れていたカップルがいた。
日本人女性とイギリス人男性のカップル。
二人の会話や流れる空気がとってもあたたかくて、お互いを尊重しあっていて仲良しで、見ている側がほっこりするような二人。
そんな二人みたいになりたいなぁと思うようになって、オーストラリアで初めて「恋人がいたらいいなぁ」という感情が生まれた。
ルームメイトとそのカップルの男性が仲良しだったのもあって、恥ずかしながらその後、ルームメイトの一人にキュンとした時期もあったり。
懐かしいなぁ。
タリーにいると、なんでか誰かに恋をしたりキュンとしたりしてしまう「タリーマジック」と呼ばれるものである。
結局タリーには5か月ほど滞在し、そのあと日本から代わる代わる遊びに来てくれた友人たちと旅行をして、日本に一旦帰国。
2年目のワーホリ。再びタリーへ
セカンドビザを無事に取得して2年目のスタートを切った場所、それはタリーであった。
そしてそこで王子と出会う。
隠れあだ名がまさに「王子」だった。
常に台湾人女子に囲まれていて、本当に王子みたいだった。
王子の友だちが
「君、彼のことどう思う?彼は君のこといいって言ってるよ。」
なんていうから、単細胞なわたしは調子に乗る。
その瞬間から王子の一言ひとことや動作などにキュンキュンしっぱなしである。
キュンキュンは日々に潤いを与える。いいものである。
しかしタリーでのキュンキュンはときめきだけで終わる。
儚くも散りゆく乙女心。
大切なのは、ロマンチな雰囲気である。
満天の星空の下で。恋に落ちた夜
合計10か月滞在したタリーにときめきを置き去りにして、わたしは旅に出た。
旅のあとの次なる土地は西オーストラリア、イルカさんと泳げるモンキーマイアだ。
ここでハウスキーパーとしてリゾートバイトをした。
モンキーマイアドルフィンリゾートは、小さなリゾート。
ヴィラ、キャラバンパーク、ドミトリーといろんなタイプがある。
自前のヨットを持って来てビーチフロントのヴィラに毎年長期滞在しているご夫婦もいれば、家族みんなでキャラバンでアウトドアを楽しんだり、恋人同士やお友だち同士でお部屋に泊まったりもできる。
ビーチが目の前にあって、遠浅の海岸に毎日イルカさんたちが来てくれる贅沢すぎるリゾートなのだ。
ペリカンさんやエミューもいるし、運が良ければウミガメも見られる。
フェリーのツアーではジュゴンも見られるとっても素敵なところ。
この小さなリゾートには地元のスタッフの他にワーホリのスタッフもたくさんいて、ワーホリのスタッフはリゾート内にアコモデーションが用意されている。
そのため、部署が違うスタッフともよく顔を合わせるのだ。
ハウスキーパーだったわたしは、毎日午後2時ころには仕事を終えて3時には親友のサマーとビーチでプカプカしていた。
時にイルカさんと泳ぎながらゆったり、午後6時には夕食、夕食後はスタッフのみんなとおしゃべり。
あぁなんて贅沢な暮らし。
ある日、いつものごとくおしゃべりしている時に背が高くてほっそい男がやってきた。
シェフであり、仕事を終えておしゃべりチームに加わる。男はわたしの隣に座り「ハンバーガーがあるんだけど、食べない?」と尋ねる。午後10時。
4時間前に夕食を終えたわたしは、おなかが空いているわけではないにしても胃袋にたっぷりの余裕があることに間違いはない。
満面の笑みで「うん、ありがとう。」と答える。
よっぽどその笑顔が嬉しそうだったのか、それともバーガーを美味しそうに頬張っていたからか。
その日から男はほぼ毎日、わたしに餌を与え続けた。
そのころわたしは毎晩ビーチで星を眺めていた。
毎晩のように海辺で見る流れ星、とっても綺麗で静かで、日中が現実じゃないみたいに感じる大切な時間。
それを知っていた親友のサマーはある晩、餌付け男にこう言う。
「一緒に星見てきたら?」
わたしがビーチへ向かった後を追う餌付け男。
この雰囲気はずるいのではないか。
満天の星空、ビーチ、静かな波の音。
これはドキドキしちゃう。雰囲気のせいなのか。
雰囲気に落ちたのか、餌付けに落ちたのか。
今となってはわからないけれど、完全に落ちてしまった。
「恋とはするものではなく、落ちるものである」とはよく言ったものだ。
別れはすぐにやってくる。
好きな人ができたかもと思ったら、餌付け男がモンキーマイアを去る日まであと数日だった。
そしてすぐにその日はやってきた。
もう、わたしに餌付けしてくれる人はいなかった。
餌付けができなくなった餌付け男と餌をもらえなくなったわたしは、17時間の時差がありつつも毎日連絡を取って、餌付け男がまたオーストラリアへ帰ってきたその時に再会を誓った。
餌付け男が帰ってきた時、彼はこれからセカンドビザを取ろうとしていて、わたしは残り3か月のビザだった。
それでも一緒にいることを決めた。
餌付け男のビザ取得のため、もう一度あの村へ。
そう、10か月間過ごしたタリーである。
二人で一つの目標に向かって。ワーホリで結んだ約束
どんなにさみしくっても、ビザは切れてしまう。
タリーでセカンドビザを目指して頑張る餌付け男と、日本に帰らなきゃいけないわたし。
さよならの代わりに
この歌をココへ置いて行くよ
また逢える時まで
諦めないで歩いていてね
“Replace”に載せた思い出の写真たちと、この曲の英訳を付けたVideoを置いていく。
会いたくなったらこのVideoを見てくれたらいいなぁって思って。
そんな気持ちでしばしのお別れ。
「ニュージーランドへ一緒にワーホリで行く」という一つの目標に向かって、離れていながらも1日1日を大切に過ごした。
恋人は外国人。
現在、わたしのニュージーランドでのワーホリは残り半年ほどとなった。
餌付け男は今でも隣でチョコレートを分けてくれているし、さよならの代わりに置いていったVideoはたくさん見てくれたようだ。
日本語がわからないからさすがに歌えてはいないけれども、たまにメロディーを口ずさんだりしている。
時折、過去を振り返る。
出会いはロマンチ過ぎて、最初の別れはすぐにやってきた。
不器用なわたしが1年間離れていても今また一緒にいられているのは、長年の片思い歴から培われたしぶとさと餌付け男以外にも日本で大切にしたいことがあったから。
周りにいてくれる人たちが潤わせてくれた日常のおかげ。
楽しいとき嬉しいときだけじゃなく、悲しいときもいつも聴いている大好きな浜崎あゆみの存在のおかげ。
お別れする時には、なんてタイミングで出会っちゃったんだろう、もう二度と会えないかもしれないと、何度も思った。
すぐに離れ離れになってもこうしてまた一緒にいるのは、やはり出会うべくして出会ったからなのだろう。
餌付け男は自分の余り物の餌付けでものすごく喜んでくれる食いしん坊と出会い、わたしはいつでも餌付けしてくれる素晴らしいシェフと出会ったのだから、離れる理由がないのだ。
一年間離れていたおかげでお互いのことをどう思っているかわかったから、これはもはや遠回りではなかったのかもしれない。
誰かが言っていた
「青い目の彼氏を連れて来てね」
というセリフ。
そんなこともあったなぁと思い出す。
タリーマジックにかかったこともあったなぁと思い出す。
“過去に残した傷跡さえ 今は愛しい”
そう言い切ることは難しいけれど、それでも餌付け男がわたしの心を自由にしてくれていることは確かだ。
「外国人が恋人だったらいいなぁ」
漠然とそう思っていた時もあったけど、そういうんじゃなくってありのままの自分の姿でいられてそれを受け入れてくれた人がたまたま「青い目の餌付け男」だったということである。(角度によってはグレーに見えることも。)
出会うタイミングは大切かもしれないけれど、本当にお互いが必要としているのであればすぐにお別れしても再会の時が来る。
時間はかかるかもしれないけれど必ずその時はやってくる。
それはもしかしたら、過去に誰かが言ってくれたセリフの中に隠れているかもしれない。
ある時ふと思い出す。
そういえば、誰かが言っていた。
「青い目の彼氏を連れて来てね」と。
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