挙手による投票制度「アッペンツェル」のお祭りを体験して

アッペンツェルのお祭りを体験して

もう既に2年前のことですが、「来年の㋃の最後の週末はスイスで有名なお祭りがあるので、予定を空けておくように」と言われて約一年。

昨年(2015年)の㋃にスイスに引っ越すと、一年前に招待されてたお祭りが2週間後に迫っていました。慌ててそのお祭りについて調べてみると、アッペンツェル(Appenzell)[http://caffe-martella-frankfurt.jimdo.com]のLandsgemainde[
http://www.appenzell.ch/de/appenzell/landsgemeinde.html]のことで、宗教的なお祭りでなくて、州議会の青空議会だということが分かりました。

スイスの直接選挙は日本の教科書で習ったことがあるものの、実際にどのように行われているのか分かってなかったので、ちょうどよい機会となりました。

直接選挙はスイスではどこでも行われているわけですが、ここアッペンツェルの場合、町の中心にある「青空議会広場」といわれる広場に約3千人程の有権者が集まり、挙手による投票を行うそうです。

挙手は右手で行い(両手は無効!)、投票結果の過半数が見極められない場合は、一人一人数えるそうです。

州レベルでの青空議会が開催されるのは今では、ここアッペンツェル(正式にはアッペンツェル・インナーローデン準州)とグラールスのみ。

記録に残っている最初の議会は1409年に開催されたそうです。

そのためもあってこの青空議会は非常に有名となり、ある意味お祭り化していて、スイス国内だけでなく外国からの観光客も多く、ホテルは1年前に予約を入れないと泊まれないほどだとか。

男性は代々伝わる刀剣持つことで投票権を持っていることを証明します。(現在は有権者カードで証明されるが、剣も認められている。)女性のほうは参政権がなんと、スイスの全州の中で一番最後の1990年になってようやく認められたとのこと。

しかも連邦裁判所による強制によって。インターネットで調べてみると、スイスで女性の参政権が認められたのはヨーロッパの中でも非常に遅い方で、スイスの中で最も早い州はヴォーとヌシャテルの1959年、次いでジュネーブの1960年、またチューリッヒと私の住んでいるルッツェルンはともに1970年とのこと。日本の1945年に比べて随分遅いのに驚きました。

アッペンツェルはオーストリアとの国境に近いスイスの北東部に位置し、ルッツェルンから車で2時間ほど。

青空議会は日曜日(2015年4月26日)に開催されるのですが、前日の土曜日にアッペンツェルに着くと、小さな町はすでに渋滞で車が細い道にあふれて、観光客もぞろぞろ歩いていました。

お祭りに招待してくれたご夫妻のお宅に伺う。家がそのまま博物館かのような骨董品に囲まれた素敵なお宅。生粋のアッペンツェル出身のご主人はすでに定年を迎えたものの、かつて貿易の仕事をしていたため奥様と世界のあちこちを行かれていて、外国人の私にもとても親切。二人とも地元の公用語のドイツ語、英語、フランス語がペラペラ。

ジュネーブ在住の娘さんとそのご友人たちも登場して、招待客が勢ぞろいしたところで「みんなで何語で話すか?」という話になりました。

娘さんもご両親同様、ドイツ語、英語、フランス語が堪能。ヴァリス州在住のご夫妻はフランス語圏出身ではあるけれど、ドイツ語も英語もできるとのこと。

ただし、もう一人のお友達はフランス人でフランス語、英語はできるけれど、ドイツ語は話せない。私はドイツ語よりフランス語の方が得意。ということで、フランス語で話しましょうということになりました。これもスイス的な光景なのかもしれないなと思いました。

その後、みんなでレストランで夕食をとりながら、アッペンツェルの政治だけでなく歴史についても聞きました。例えば、宗教改革の後アッペンツェルはカトリックの州(アッペンツェル・インナーローデン準州)とプロテスタントの州(アッペンツェル・アウサーローデン準州)とに戦争もなく平和的に1597年に分離したそうです。[http://www.ai.ch/de/politik/sitzung/]アウサーローデンでは1997年にLandsgemainde(青空議会)は廃止されたとのこと。

カフェ

翌朝、軽め朝食の後、散歩にでかけると日曜の朝なのにもうすでに観光客がぞろぞろ歩いています。この地方の伝統的な屋根の形をしたホテル前のカフェで、ご主人たちと集合。

男性のみ剣を持っています

そして教会へ向かうと、教会から出てきた黒い装束の人たちが列になって町の中心のほうへ向かっていくのが見えました。男性のみ剣を持っています。

ナポレオン風の装束をした男性と男の子のみの行列

その後、ナポレオン風の装束をした男性と男の子のみの行列が通りました。やはり腰に剣をさしています。

彼らの後を追うようについていくと、町の中心の青空議会広場にでました。既に、ひな壇が設置されていて、その脇には貴賓席として連邦内閣閣僚や招待された各国の大使等らの来賓のため椅子席がありますが、参加住民用の椅子は見当たりません。広場では楽隊がパレードをしてます。

一年前から予約

青空議会は12時から始まるのでその前に昼食をすませる人のために、この日は特別にレストランは早めに開店してるとのこと。レストランに入るとすでに食べている人たちもチラホラ。私たちのテーブルは集会が良く見える窓際に一年前から予約してありました!

娘さんは現在ジュネーブ在住なので、アッペンツェルの投票権はないのですが、ご主人と奥様は投票権をお持ちなので、早めにお昼を食べて青空議会に参加されるのかと思っていたところ、「今回は行かない。もう年だしずっと立って議会の演説などを聞いてるは大変だから」と。

先ほど広場に椅子がないなと思っていたら、案の定、青空議会に出席する人たちはずっと立っているとのこと。議会は早ければ13時には終わってしまいますが、年によっては夕方ぐらいまで続くときもあり、体調不良で倒れてしまう人がいる時もあるそうです。

また、ご主人によると期日前投票のような制度もなく、旅行などで会議に参加できない場合も投票できないそうです。また、挙手についても狭い世界でお互い知り合いなので、プライバシーがないのもやりにくい場合があるとも。

ご主人がお持ちの議会の冊子(100ページ以上!)を見せていただくと、議会の各案件が詳細に書かれていました。こちらはインターネットでダウンロードもできます。[http://www.ai.ch/dl.php/de/5519112fd7c54/Landsgemeindemandat-2015.pdf]議題の中には、何十年も前に死亡事故のあって閉鎖されていた水泳プールを再建するという案があり、予算や建築図案なども含まれていました。これ全部を読んで、会議中ずっと立って集中して演説を聞くのは相当辛いなと思いました。

実際の青空議会を見ていて一番興味深かったのは、州知事、州副知事並びに、州の閣僚の信任投票です。先ほど歩いてた黒い装束をきた人たちは閣僚たちで、ひな壇に上っています。

有権者に信任されない場合、もしくは、自分からの意思で退任する場合、その場から離れなければならない

有権者に信任されない場合、もしくは、自分からの意思で退任する場合、その場から離れなければならないそうです。

欠員が出た場合、議会に参加している人が自分から、もしくは支持者が候補者の名前を告げ、この候補者を信任するかどうか投票してました。文字通り、住民の声が届いてるのです!直接民主主義が果たして政治制度として最適なのかどうかは専門家の判断に任せたいと思います。

ただ、少なくとも有権者はこのような場で自分の権利を行使できると実感でき、積極的に政治にかかわりを持てる機会があるのはよい点だと思いました。

また、たとえアッペンツェルの女性の選挙権が認められたのはかなり遅かったとしても、現在では州議会の閣僚として女性も活躍もしていたり、女性住民もかなり投票に参加していて、時間はかかっても今ではある程度時代に寄り添っているのかなと思われます。

アッペンツェルで生まれ育った娘さんは18歳になったときは、まだアッペンツェルでは女性の選挙権が認められていなかったようですが、その当時学生で既に別の町に引っ越していて、その後も外国やジュネーブで暮らしていたりでアッペンツェルで投票したことはないらしい。

ご両親が貿易の仕事してて、外国の異なる文化・風習に慣れて育ったためもあってか、彼女は典型的なアッペンツェル人のような保守的なところがほとんどなく、進歩的な考え方をしているように見えました。

レストランでご主人が「ここは私が全員分を払います。」と言ったのに対して、「パパ、時代は変わったのよ。ここは各自で割り勘にするから!」と優しくハッキリと言ってました。実際にはみんなが青空議会に気を取られている間に、ご主人が席を立ってさっさと支払いをすませてしまっていたのですが!

ところで、この議会は標準ドイツ語をベースに地元アクセントで話す人と、地元の方言だけの人とで執り行われ、標準ドイツ語とかなり異なるので正直あまり理解できませんでした。

ドイツ語が母国語の人でも理解できない人が結構いるようです。幸い招待してくださったご夫妻と娘さんが代わる代わる標準ドイツ語やフランス語に通訳してくださったのおかげで、なんとか理解することができました。言葉や議題が分からないないとこの青空会議はただの「お祭り」に見えてしまうのかもしれません。

もちろん、青空議会開始前のパレードなどで、野外コンサートのようにも見える議会を間近で見るだけでも相当雰囲気が楽しめます。

当たり前ですが、住民たちは演技でなくて本気で議会に参加していて、それを「お祭り」として観光の目玉にしているというのも中々面白いなと思いました。

電子投票について語られるこのご時世ではあるけれど、アッペンツェルではこの挙手による投票制度は今のところ続けるとのこと。

アッペンツェルの「お祭り」を体験して、伝統を守りながら未来のことを考えるのはたやすいことではないなと改めて思いました。

その他参考文献:

https://en.wikipedia.org/wiki/Landsgemeinde

https://de.wikipedia.org/wiki/Frauenstimmrecht_in_der_Schweiz

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