神出鬼没な生き物、アリ
「床に黒い紐のようなものが落ちているのかと思ったら、何やら細かいものが蠢いている。顔を近づけて良く見ると、なんとそれは小さなアリの大群。思わず悲鳴をあげてしまった。」
こんな経験は、インドネシアでは日本人駐在員ばかりでなく出張者や旅行者でも経験のあることです。
テーブルの上に、ジュースを飲んだ後のコップを置きっぱなしにしたり、お菓子を出しっぱなしにしたりすると、それはたちまちアリたちの格好の獲物になります。
たとえ、高層階のマンションやホテルであっても、彼らにとっては何ら障害にはなりません、
壁をつたって、神出鬼没ですから実にやっかいな輩なのです。
日本のアリより小さいのにその行動力ときたら、まるで赤道直下の太陽のエネルギーを十分吸収して発散しているかのようです。
元気なのは小さなアリたちばかりではありません。
ゴルフをしているときに木の下にあるボールを打とうとしたら、突然大腿部のあたりを「チクリ」と激痛が走りました。
何事が起きたかと目を凝らすと、体長3センチくらいの薄茶色の大きなアリが、親の仇とばかりにズボンの上にしがみついて噛みついているではありませんか。
まさかズボンの上から噛みつくアリがこの世にいるとは思いませんでしたから、腰を抜かしてしまい、それからはゴルフどころではありませんでした。
一緒にいた友人があれはマンゴアリだと言っていましたが、いまだに図鑑で身元確認まではしていません。
インドネシアでのネズミとの攻防
神出鬼没と言えば、ネズミのことも忘れることができません。
ある朝会社の事務机の引出しを開けると、中に入れておいたのど飴が袋ごとネズミの歯形を残して食べられていました。
事務机は必ず鍵を閉めていたのですが、ネズミはなんと電話のコードをよじ登り、机の裏側にある引出しとのわずかな隙間をすり抜け侵入しているのでした。
まわりの人間に聞いてみると、日本人も現地スタッフもみなしっかりと机の引出しの隙間に、テープで目張りしてネズミの侵入防護工作をしているのでした。
ネズミは人間の食べ物ばかりでなく、電気のコードを噛み切って事務機械を動かなくしたり、書類をかじってしまったりするかなり性質の悪い奴らでした。
あるとき、会社の税務調査で提出を求められた資料が、ネズミに食われてほとんど跡形も無くなっているときがありました。
別に悪いことをしていたわけではありませんが、面倒くさい説明をしなくて済んで、現地スタッフともどもほっとしたことがあります。
さすがに当局の人間は資料がネズミに食われてしまったのを関連書類の隠蔽行為とまでは言いませんでした。
それでも夜な夜な家の天井裏で太鼓を鳴らすがごとく運動会をするのに至っては、安眠を妨げるのでみな頭にきてしまいます。
それも一匹がごそごそしているのではなくて、一個小隊くらいの数がドタドタドタとかなり大きな音を立てて走りまわっているのですから敵いません。
使用人にネズミを駆除するように言うと、早速インドネシア製の猫いらずを買ってきて、天井裏にばらまきます。
翌朝猫も驚くような大きなネズミの屍骸が一匹庭にころがり出ますが、敵もさるもので必ず犠牲になるのは最初に猫要らずを食べてしまった勇敢なる一匹目だけです。
他の連中はそう簡単に同じ手には乗ってきません。
暫く平静を装ったかと思いきやまた運動会を始めた折には、彼らの知的レベルの高さに敬意を表するばかりで怒る気もしなくなるのでした。
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