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移民事例と永住権取得までの問題点

移民事例と問題点

6月18日は「海外移住の日」である。

これは、1908年日本人移住者781名を乗せた移民船「笠戸丸」がブラジルのサントス港に初めて入港したことにちなんで、1908年に総理府によって定められました。

現在でも、日本と移住先国との友好間関係を促進するための記念日となっています。

そして近年、日本から海外への長期滞在者は増加しています。

その手段の1つが、ワーキング・ホリデー制度を利用したもの。

ワーキング・ホリデーとは、二つの国・地域間の取り決め等に基づき、各国の国・地域が、相手国・地域の青少年に対して自国、地域間の文化や一般的な生活様式を理解する機会を提供するため、自国・地域において一定期間の休暇を過ごす活動とその間の滞在費を補うための就労を相互いに認める制度です。

その中でもカナダはオーストラリアの次に人気が高く、その理由としては仕事が見つかりやすいことや、安全性など。

2008年にはバンクーバーオリンピックに向けて外国人労働者や移民が来やすいよう、次々と法改正がされたことに加え、日本・カナダ間の「ワーキング・ホリデー」の定員も倍増しました。

バンクーバーはカナダ西部では最大の「都会」であり、ワーキング・ホリデーを利用する多数の日本人がバンクーバーを選んでいます。

彼らの中には「やりたいこと探し」のために滞在の延長を望み、移民という道を選択する者もいる。

カナダ移民希望者の増加により職場のハラスメントに関する、さまざまな問題が発生しているが、これらの問題解決は難しいのが現状です。

そこで、今回はカナダワーキング・ホリデーの移民希望者の事例に着目し、問題点の発見や解決が困難なのはなぜかを分析していきます。

そのうえで、筆者のワーキング・ホリデー体験も含めて対応策を検討し、現地で役立つ情報提供をしていけたら幸いです。

カナダワーキング・ホリデーからの「市民(citizen)」と「永住者(permanent status)」

カナダワーキング・ホリデーからの移民制度 

2014年11月のデータだと、6,230人がカナダワーキング・ホリデーを利用しており、その中には移民を希望する人もいる。

ここでまず、カナダに「移民」する仕組みをまとめる。「カナダ人」には、「市民(citizen)」と「永住者(permanent status)」の2種類の人がいる。

他国からやってきて「カナダ人」になりたい人は、難民などの特別な場合を除き、まず「永住権(permanent resident status)」を移民局に申請する。

永住権とは「カナダに永住する権利」であり、ここにはほとんどの市民と同じ権利が含まれるが、参政権と、公的機関に勤める資格だけはない。

この永住権を得てから、4年間のうち3年間に当たる日数をカナダで過ごすと「市民権(citizenship)」を申請する権利が生じるが、永住者のままでもよい。本論文では、永住権を目的とすることを「移民」として扱う。

「移民する」には、従来いくつかのルートがあり、「個人移民」や「専門技術者(skilled worker)」として申請する場合は、自分の職歴・学歴などをポイントに換算し、それらの合計が政府の定める合格点を越えていなければなりません。

「投資家移民」とい申請方法もあり、これはビジネス経験と一定額の総資本、カナダ政府への一定額の投資が必要です。

「家族移民」になるには、「カナダ人」の近親者、配偶者、婚約者にスポンサーになってもらい、申請をしてもらう。

さらに2008年、観光ビザや学生ビザといったオープンパーミットを持たない人が、労働ビザを取得する際に必要となる「LMO(Labour Market Opinion)」制度が新設された。

これは、雇用主が外国人を雇用する際に必要となる制度である。該当のポジションの人材を募集したが、適切な人材が現地では見つからなかったため、外国人を雇用するしか手段がなかったということを、カナダ労働局にあたるService Canadaに対して証明するのである。

例えば、過去に掲載した求人の情報(掲載場所、掲載期間など)、応募者数、面接を受けた人数、またどうしてこの人物がこのポジションに適切なのかなどといった情報を提出しなければならない。

現地の人を雇う努力をしていたことが認められない、またはそのポジションが外国人である必要性がないと判断されると、この許可は降りないということになる。現地の人で十分まかなえるような仕事であれば、外国人を雇わずに現地の人を雇用せよという制度である。
            
だが、ワーキング・ホリデーで来ている場合はこの「LMO」は必要ない。

つまり、雇用主側と働くワーキング・ホリデー利用者の両者にとって都合良いビザである。これらのことから、カナダワーキング・ホリデーを利用し「移民になる」ためには、「ワーキング・ホリデービザ」から「労働ビザ」への切り替えをサポートしてくれる雇用主を見つけ、スポンサーになってもらい移民申請する必要がある。

就労ビザのスポンサーとなる雇用主からの職場のハラスメント

就労ビザのスポンサーとなる雇用主からの職場のハラスメント

近年、ワーキング・ホリデーからのカナダ移民希望者の増加により、「職場のハラスメント」が発生している。

ワーキング・ホリデービザから「永住権」を申請するためには「就労ビザ」のスポンサーとなる雇用主を探し、そこで長期間働くことが必要である。

だが、ワーキング・ホリデー利用者の増加とともに、スポンサーとなる雇用主は少なくなった。

なぜなら、働き手はどこにでもいるからだ。労働ビザの取得が容易にできる場合もあれば、さまざまな問題を含む場合もあるということを、インタビューやアンケート、文献資料からの事例をあげていく。

成功事例

①ワーキング・ホリデーから労働ビザ

2013年春にバンクーバーで出会った女性の事例を紹介します。

彼女と出会ったのは、筆者がダウンタウンの語学学校で勉強をしていた時ででした。

筆者はホームステイをしていたため、新しいダウンタウンのマンションのシェアメイトを学校で募集していた時に出会った。

彼女はカナダに来たばかりで、郊外にあるホームステイを経て、ダウンタウンにあるシェアハウスを探していた。ダウンタウンの家を選んだ理由は、仕事が見つかりやすいからである。

彼女は英語を使う仕事を経験したことがないため、日本人経営のレストランを探していた。そして彼女は、JPカナダという日本人向けの求人サイトから、新規オープンする日本風のスパゲティー屋の、サーバーの仕事を得ることができた。

カナダのレストランには一般的にキッチン、サーバーと分かれている。サーバーとはウェイトレスのことであり、チップが貰えるため、ワーキング・ホリデー利用者には人気のある職種である。

彼女はオープン1ヶ月前から準備を手伝い、店がオープンするころには新しいスタッフに指示を送り、彼らのシフトを作るマネージャーのような立場で働くようになっていた。彼女は雇用主と良い関係を築けたため、労働ビザへの切り替えの許可を得ることができた。

②ワーキング・ホリデーから労働ビザを得て、移民申請中

さらにもう1人、筆者が2013年5月にバンクーバーの語学学校で出会った女性を紹介します。

語学学校で同じクラスになり、履歴書の書き方や、仕事の探し方を教えてほしいと頼まれよく話すようになった。

日本ではインターネット広告代理店で働いていたという彼女は、カナダへ渡る前にその仕事を辞めた。コーヒー文化に興味があり、安全性と英語がアメリカ英語だからという理由で、カナダのバンクーバーにワーキング・ホリデーとして渡ることを決めた。

彼女は、カフェでバリスタとして働くことを希望していた。カフェの仕事はワーキング・ホリデー利用者に大変人気のある職種であり、日本のワーキング・ホリデー斡旋会社の紹介する体験談に、成功例としてよく掲載されている。

なぜなら、仕事内容は決して難しいものではなく、さらにチップまで貰えるからである。

その後、彼女はCraigslistという世界中の人が利用する求人サイトでカフェの仕事を得ることができた。

バンクーバーのカフェは、働きたいという希望者が多数おり、そのため労働ビザを得るのは難しいと言われていた。

だが彼女は、職場の仕事仲間や顧客と良好な関係を築き、雇用主から労働ビザへの切り替えを許可された。そして彼女は現在、移民申請中である。

悪質な労働体制の事例

これまであげた2つの例のように、「成功例」と見えるケースも数多い。

だが一方で、ワーキング・ホリデー利用者が被害者になるケースも後を絶たない。以下では、職場でのパワー・ハラスメント、セクシャル・ハラスメント、そして「スポンサー」という言葉を利用した悪質な労働体制の事例を紹介します。

①「スタッフ募集」の罠

社会福祉NPOの元職員によれば、仕事に関してワーキング・ホリデー利用者からの相談件数がもっとも多い職場は、移民一世が経営するカフェやレストランと、一部の日系飲食店である。

これらの雇用主は、自分自身も英語が流暢でないにもかかわらず、日本人のワーキング・ホリデー利用者に「そんな下手な英語では、他に雇ってくれるところはない」と言って働かせ続ける傾向にある。

あるデザート店で、南アジア系と思われる店主が「自分は過去10年、日本人の女性しか雇わない。日本人の女性は良い働きをするから」と語る横で、若い日本女性がフルーツを切っていた。

彼女にここでの仕事は楽しいかと聞くと、答えにくそうにしたあと、「家族扱い」「こき使われる」と答えた。

休みも取れるかわからないという。その店の入り口には、日本語で「スタッフ募集」という貼紙があり、これは彼女が働く前から貼ってあり、勤め始めてもそのままだという。

実は、経営者がどのような民族であれ、日本語で「スタッフ募集」の貼紙が常に出ている店は「要注意」とワーキング・ホリデー利用者はいう。

なぜなら、常に急募しているところにはそれなりの理由があるからだ。

そしてハードな労働環境から、ワーキング・ホリデー利用者は仕事を辞め、次の利用者はまた同じ被害に遭うのだ。

②パワー・ハラスメント

より明確な雇用主側のパワー・ハラスメントもある。

例えばフランス系カナダ人経営のケータリング会社では、ワーキング・ホリデー利用者の女性が、高熱のために休みを願ったり、長時間の野菜切りをした結果、腱鞘炎にかかり辞任を希望したが、直属の上司に拒否された。

ロッキー山脈エリアにある南アジア系移民経営の宝石店では、人里離れた研修所に集められた研修生が、すべてワーキング・ホリデー利用者の日本人女性だった。

そこでは、社長から怒鳴られるなどの異様な雰囲気があり、皆が「辞めたい」と言っても、社長と日本人移民の上司に却下され、「脱走」した。

③セクシャル・ハラスメント

行動や言葉による直接的なセクシャル・ハラスメントやパワー・ハラスメントも珍しくない。

あるワーキング・ホリデー利用者の女性は、同居人からセクシャル・ハラスメントを受けたことを職場の上司に相談すると、その上司からもセクシャル・ハラスメントを受け、やめてほしいと訴えると解雇された。

さらに、カフェに勤める別の女性は、不当な支払いについて上司に抗議すると「日本人女性なのに口答えをした」と言われ、やはり解雇されたという。

カナダに渡る日本人一時労働者の約80%が女性であることから、その民族性だけでなくジェンターを、雇用主が一方的なステレオタイプに基づいて「利用しやすい」ものと判断し、女性を雇い、その解釈に合わない面を見せられれば権力を行使する、という形のハラスメントが目立つ。 

④「スポンサー」という言葉を使った労働問題

雇用主の中には、労働ビザや移民申請の「スポンサー」になることが、相手に対して権威を持つことであると勘違いする者もいる。

例えば、飲食店で働いていたワーキング・ホリデーの女性いわく、上司が、少しでも彼女に対して気に入らないことがあると「これ、どうしようかな」と、労働ビザの申請書をちらつかせたという。もし制度への知識がなければ、働く側は雇用主のこのような言動に惑わされるだろう。

解決策は情報交換の場

解決策は情報交換の場

①見えてきた課題

前章で述べたように、雇用主に悪意がないように見える事例もあれば、明らかに日本人のワーキング・ホリデー利用者をターゲットとしているものもある。

そして、日本人の働く側が、不当な扱いをされていることに気づかない、気づいても現状を変えようとしないところに問題がある。

実際に、バンクーバーの人権保護団体によって、ワーキング・ホリデー利用者はそれらを法的に訴えたがらないということが明らかとなった。

その原因は、時間や金銭の不足にあると言われている。

さらに、「頑張る」「我慢する」「迷惑をかけない」などの、日本では美徳とされるような忍耐志向、集団志向は、カナダの雇用者から見れば、「信じられないほど都合がいい」のである。

加えて、日本のワーキング・ホリデーの説明会などで、ワーキング・ホリデー期間中に相談できる場として紹介するものの多くは、カナダの日本大使館や現地の留学エージェントであり、それらがワーキング・ホリデー利用者すべての相談にすばやく対応することは困難である。

そのようなことから、日本人は「1人で頑張れなければ」と、容易に日本大使館や留学情報センターなどに駆け込まず、何でも1人で解決しようとする。

こうして、彼ら彼女らは海外という環境の中、異なった価値観の人々に使われ、自分でも状況がわからぬままに「弱者」になり、過大なストレスを抱えていくのである。

カナダから日本に来るワーキング・ホリデー利用者が、「英語話者」や「白人」というだけで、「先生」や「美形」として、母国では経験したことのないほど崇められる傾向にあるのに対し、日本からカナダに渡る者は、この逆の「価値の下落」を経験するのである。

②情報交換の場

カナダへワーキング・ホリデーに行く前は、利用者の多くが、「1年期間働いて、1年後は日本に戻る」と考えているでしょう。

だが、ワーキング・ホリデー利用者が現地で働きだすと、「ここで人生を変えなければ」「労働ビザを取得して、もっと長くカナダにいたい」と気持ちが変化するのは珍しいことではなく、それを実現するために必死になる。その場合に、これまで述べたような職場での問題が発生する可能性が高い。

これらの対策を、日本のワーキング・ホリデーに関わる機関では行っていないのが現状である。

そのような時に役立つのは、現地の生きた情報と、現地で出会う人との繫がりである。

そこで、大使館や現地の留学エージェントではなく、現地で頼ることのできるものについて検討する。

まず紹介するのは日系のスーパーで入手できる新聞である。

週に1度発行されており、1部1ドルのものもあれば、無料で配布されるものもある。

それらには、カナダや日本のニュース、求人、イベント情報や広告が掲載されている。

そして最終ページには、習い事の生徒募集が多数ある。習い事を通して、現地の人と交流することは、現地の新しい情報を得ることに繋がる。

次に、JPカナダというサイトを挙げたい。これは、カナダ在住の日本人向けの情報サイトである。現地の生の声が聞けるカナダ・ブログ、仲間発見といった、同じ趣味も持つ人と交流することを目的としたものもある。

その中に、カナダ移民を考えている人との情報交換掲示板や、ワーキング・ホリデー利用者のための、悩み事相談の掲示板もある。

そこには、最新の情報が常に投稿されており、実際に連絡をとり、会うことも可能である。

さらに、ワーキング・ホリデー利用者の抱える悩みをシェアするためのセミナー募集もある。

何かのコミュニティーの一員になることは、さまざまな状況に対応する情報や知識を得ることに繋がる。現地での人間関係は、海外生活において極めて大切なものである。

悪質な労働体制に対してできること

本記事では、カナダワーキング・ホリデーの利用者が、移民を考える中で発生する問題点について考察してきました。

そこからみえてきたのは、行動や言葉による直接的なセクシャル・ハラスメント、パワー・ハラスメントといった、悪質な労働体制です。

海外に渡って就労する上で、これらの被害を回避するために知っておかないといけないのは、不当な扱いをされているということを「問題」として捉えること、「労働者としての自分」の身を守るための知識だと考えます。

就職の仕方だけでなく、仕事中のトラブルの処理の仕方、公的機関への訴え方、そして「やめ方」まで含めた現地の法や習慣を事前に知る必要があり、1年間の滞在であっても、ワーキング・ホリデーに関わる機関が、この事前教育を行うべきだと思っています。

そのうえで利用者は、現地に関心を持ち、日本人も含めた現地の人々と共に何かをすることで現地に「所属」することが重要だと思います。

人間関係も構築して、現地での居場所を作ることが、セーフティーネットとなり、自分の身を護ることができる大事なポイントです。

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